Q:遺産分割成立までの賃料収入の分け方は?

Q:夫が亡くなりました。相続人は私(配偶者)と子ども2人です。相続人それぞれが仕事等で忙しく、なかなか遺産分割協議が行えず、相続開始から半年が経過しようとしています。夫は生前マンションを貸しており、その賃料収入が相続開始からも支払われ続けています。 この賃料収入は、相続財産として遺産分割の対象となるのでしょうか。

A:結論としては相続財産ではありません。遺産分割が成立するまでの間に被相続人が所有していた不動産から生じた賃料収入などは、原則法定相続分で分割することになります。ただし、相続人全員の合意があれば、賃料収入を遺産分割の対象とすることも可能です。

自分が所有する不動産を第三者に貸している場合に、地代や家賃を受け取ることがあると思います。法律の世界では、地代や家賃のように、物から生じる収益を「果実」と呼びます。果実は、収益が生じる態様によって、「天然果実」と「法定果実」とに分類されます。

天然果実…物から得られる産出物。
<例>
果樹から得る果物・乳牛から得る生乳・鉱山から得る鉱石 など

法定果実…物を使用する対価として収取される金銭など。
<例>
地代・家賃・利息 など

法定果実のイメージとしては、地代や家賃は、不動産という樹木に生っている「果実」だと考えると分かりやすいかもしれません。
※以下、本件Qの賃料収入は「法定果実」といいます。

被相続人の財産(相続財産)は、死亡時点で被相続人の手元を離れ、遺産の分割が成立するまでは、相続人同士が共有することになります。そして、死亡した後に生じた法定果実も、同様に相続人の共有物という考えを取ります。一見、「相続財産じゃないの?」と思うかもしれませんが、被相続人の死亡後の法定果実は相続財産ではありません。よって遺産分割の対象にもなりません。

この点については、最高裁判所の判例が存在します。

遺産は、相続人が数人ある時は、相続下肢から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割段独裁権として確定的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。
(最判第一小法廷平成17年9月8日判決)

要点を述べると、

1.法定果実は、遺産とは別のものと考えるべきである

2.法定果実は、法定相続分に応じて当然に各相続人に帰属すると解するのが相当である

3.遺産分割が成立した場合、その効果は相続開始の時に遡って発揮するが、法定果実はこの影響を受けない

というところになります。

特に、3の点について補足します。遺産分割が成立するまでは、相続財産は一旦相続人同士の共有物になると説明しました。そして、遺産分割が成立すると、その内容は相続開始時からそうだったかのように効果を発揮します。例えば、相続財産に不動産がある場合、その不動産は一旦相続人同士の共有物になりますが、それを配偶者が取得した場合、あたかも相続開始時点で配偶者が取得したかのように扱うことになります。
しかし、そうなると、「不動産が最初から配偶者のものであると扱うなら、不動産の賃料収入は配偶者のものと主張できるのでは?」ということになりかねない訳ですが、判例は、法定果実はその影響を受けない、つまり法定相続分通りの分配のまま、各相続人が取得できると示しています。

なお、最高裁判所の判例はまだありませんが、下級審において、共同相続人(相続権を持つ相続人全員)が法定果実を遺産分割の対象とすることについて合意をした場合は、法定果実についても遺産分割の対象とできると示されています。
しかしながら、「遺産分割が成立するまでに生じる法定果実が相続財産でない」という前提は変わりません。相続財産でないものを、相続人間の合意のみで分割できるのかどうかというところについては、見解の相違があるという状況です。

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