Q:故人の借金も遺産分割したのに…?

Q:父が亡くなり、母、私、弟が相続人になりました。父には多少の借金がありましたが、母には負担をかけたくないと思い、私と弟で2分の1ずつ返済しようと約束し、債権者にも伝えました。しかし、債権者は、私と弟にはもちろん、母にも返済を要求してきます。理由を聞くと、「借金は遺産分割の対象ではないから、こちらは法定相続分に基づいて請求できる」と言うのです。そのようなことは可能なのでしょうか。

A:基本的には債権者の言うことが正しいです。相続において、借金や債務などのマイナス財産は遺産分割の対象にはなりません。

相続人が、被相続人の財産をどれだけ取得できるかというところについては、まず、「法定相続分」という、民法に規定されている取得分があります(配偶者、子ども2人が相続人だとすれば、母が2分の1、子どもがそれぞれ4分の1になるなど)。

一方で、法定相続分というのは、いわば相続人が取得できる割合の目安のようなもので、相続人間で、誰がどの財産をどの程度の割合(一部または全部)取得するかということを、協議によって自由に決定できます。このような協議を遺産分割協議といいます。

ところで、相続財産には、プラス財産(現金、預貯金、不動産、株式等)とマイナス財産(借金、債務等)とがあります。「財産」というといい響きのようにも思えますが、被相続人の借金なども、相続の対象となってしまいます。

結論から言うと、借金や債務などのマイナス財産は、遺産分割の対象とすることはできません。ただし、実際には、「債務の分割内容を債権者に一方的に主張することはできない」と言った方が正しいでしょう。

なぜそのような取り扱いになるかというと、相続人の勝手な合意によって債務が分割されてしまうと、債権者側に不利益が及ぶ可能性があるからとされています。

(最二小判昭和34年6月19日)
「…債務者が死亡し、相続人が数人ある場合に、被相続人の金銭債務その他の可分債務は、法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継するものと解すべきである…」(理由一部抜粋)

上記最高裁判例の他、大阪高裁決定昭和31年10月9日や、東京高裁決定昭和37年4月13日においても同様の見解が示されています。

なので、例えば「たくさんプラス財産を相続した人が、マイナス財産もたくさん相続する」という趣旨の協議内容も、債権者からすれば「知ったこっちゃない」ということになりかねない訳です。

では、被相続人のマイナス財産は、本当に法定相続分通りに相続しないといけないのかというと、決してそうではありません。 遺産分割協議においてマイナス財産を法定相続分に拠らずに分割した場合、その合意は、「相続人の間」では有効な合意となります。その上で、その合意内容について、債権者も同意すれば問題ありません

図にすると、以下のようなイメージとなります。

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