Q:一度成立した遺産分割協議を解除することは可能か?
Q:父が亡くなり(母は既に死亡)、兄、私、妹が相続人になりました。父が住んでいた土地や建物は、兄が一旦相続してその後売却し、私と妹には代償金を払うという形で遺産分割協議が成立しました。しかし、兄は一向に不動産の売却手続きや相続登記を行ってくれません。兄が動かないなら、私や妹の方でやってしまいたいと思うくらいです。 このような場合、私や妹から遺産分割協議の解除を行い、新たに遺産分割協議を行うことはできるのでしょうか。
A:遺産分割協議の解除は、特別の事情を除いて相続人全員の合意が必要です。このようなケースでは、兄の合意もなければ解除はできません。
遺産分割協議は、それ自体は契約そのものではありませんが、当事者間の合意によって一定の法律効果が生じるものです。例えば、アパートなどの賃貸借契約の場合、借主が家賃を支払わなければ、貸主は、借主の債務不履行を理由に契約の解除を主張し得る訳ですが、本件のような場合に、その協議内容を解除、つまりなかったことにできるのかどうかというところが問題となります。
本件については、最高裁判所の判例があります。判例によれば、遺産分割協議は、債務不履行による解除はできないと判断されています。
「共同相続人間において遺産分割協議が成立した場合に、相続人の一人が他の相続人に対して右協議において負担した債務を履行しないときであっても、他の相続人は民法五四一条によって右遺産分割協議を解除することができないと解するのが相当である。」
(「最一小判平成元年2月9日」判決理由一部抜粋)
よって、本件のようにお兄さんがいつまで経っても不動産売却や相続登記などの手続をやらず、それに伴い代償金の支払いもしてくれない場合でも、他の相続人からきちんとやるように請求するほかはないということになります。
一方で、相続人全員の合意によって解除することは可能です。