Q:「相続分の譲渡」「相続分の放棄」「相続放棄」の違いは?

Q:「相続分の譲渡」とは何ですか?また、「相続分の放棄」とは何ですか?相続放棄とは何が違うのでしょうか?

A:ざっくり説明すると、
「相続分の譲渡」

・・・自分の法定相続分を他人に譲り渡すこと。相続人の地位は残る。

「相続分の放棄」
・・・自分の法定相続分を受け取ることを拒否すること。相続人の地位は残る。

「相続放棄」
・・・自分が相続する権利や地位自体を放棄すること。相続人の地位は残らない。

となります。

この3種類の用語は非常に分かり辛いと思いますが、正しく用いないと思わぬトラブルを生む場合があります。

それぞれの用語を説明するために、1つ例を設けます。

「A・B・Cの3人は、Xから、150万円のお金を『仲良く1/3ずつ分けるように』と言われました。」

Xが被相続人、A・B・Cの3人が法定相続人だと思ってください。

1.「相続分の譲渡」の場合

「Aが、普段からお世話になっているDに、『自分の相続分をあげたい』と思い、相続分を譲渡する」

「相続分の譲渡」とは、自分の法定相続分を他人に譲り渡すことを言います。
譲渡先は、相続人でも相続人でなくともよく、譲渡する相続分は、全部でも一部でも構いません。さらに、譲渡の対価は、無償でも有償でも構いません。例えば不動産の相続権を譲渡する代わりに、いくらかの金銭を対価として設定してもよいのです。

図のように、Aが相続人でないDに相続分を譲渡する場合、DがAの相続分をそのまま引き継ぐ訳ですが、他の相続人(BやC)に譲渡する場合は、他の相続人の相続分に、その人の相続分が上乗せされることになります。(例えば、AさんがBさんに相続分を譲渡した場合、Bさんの相続分は3分の2になります。)

ただし、相続分を全て譲渡したとしても、相続人としての地位は残ります被相続人の借金や債務などがあった場合、債権者から返済を要求されたら、対応しなくてはなりません

2.「相続分の放棄」の場合

「Aさんが『私は50万円を受け取らなくていい』と相続分の受取りを拒否する」

相続分の放棄とは、自分の法定相続分の受け取りを拒否することをいいます。
例の場合は、Aさんが50万円の受け取りを拒否したことにより、Aさんが受け取るはずだった50万円は一旦宙に浮きます。宙に浮いた50万円は、残りの相続人(BとC)の相続分に応じて分配されることとなります

ただし、相続分の譲渡同様、相続分としての地位は残るため、被相続人の借金や債務などがあった場合、債権者から返済を要求されたら、対応しなくてはなりません。

3.「相続放棄」の場合

「Aが『自分が相続人である』ということ自体を放棄する。Aは、初めからいなかったものとして扱われる。」

相続放棄は、遺産の相続に関わる全ての権利義務一切を放棄することです。
相続分の放棄・・・「私は確かに相続人ですが、50万円の受け取りは拒否します。」
相続放棄・・・「相続放棄をしたので、私はそもそも相続人ではありません。
という違いがあります。
相続放棄を行うには、相続の開始を知った時から3ヶ月以内に、家庭裁判所に対し相続放棄の申述をしなければなりません。
一旦相続放棄の申述が受理されると、原則として取り消すことはできません

ここまで読んでいただくと、「結局『相続分の放棄』と『相続放棄』の違いは何??」と思う方が多いのではないかと思いますが、まとめますと、以下のような違いがあります。

相続分の放棄相続放棄
①相続人の地位残る残らない
②借金や債務の返済義務負う負わない
③手続の方法相続分放棄証書を作成し、署名及び実印を押印するのみ家庭裁判所に相続放棄の申述を行う
④撤回のしやすさ公的機関を通すわけではないので、比較的容易。ただし、遺産分割協議成立後の撤回はできない一度受理されると、原則として撤回はできない。受理前であれば撤回は可能。
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