相続放棄は慎重に!~落とし穴と対策~
自らが相続人となった際、被相続人のプラス財産(預金・不動産など)よりマイナス財産(借金・債務など)の方が多い場合には、マイナス財産を相続しないために相続放棄をするという選択肢があります。
相続放棄の本来の意義とは、相続人に「相続しない権利」を付与することであると言えますが、別の目的を達成するために相続放棄を利用する方々がいらっしゃいます。
それは、「特定の相続人に相続財産を集中させる」という目的です。
ひとつ例を挙げてみましょう。
夫と妻、そして3人の子どもがいる家族がいたとします。夫が死亡し、妻と子ども3人が相続人となりました。夫の財産としては、預金の他、地元に幾つかの土地が残っていました。ただし、土地の活用方法が分からず、相続するにもどうすればいいかと困ってしまった相続人らは、「妻に相続財産を集中させて土地の名義の分散を防ぎ、妻の名義とした上で売却を図ろう」と考えました。そして、妻に相続財産を集中させる手段として、子どもらは各々相続放棄をしたのでした。
しかし、この選択には大きな落とし穴があるのです。
1.法定相続人の順位について
通常、相続人が誰になるかということは法律で定められています(法定相続人)。ただし、法定相続人全てが直ちに相続権を持つわけではなく、法定相続順位に従って順に相続権が与えられる仕組みになっています。
法定相続人とその順位
※続柄は被相続人から見たものになります
- 第一順位 子ども
- 第二順位 親
- 第三順位 兄弟姉妹
この法定相続順位というものは、例えば第一順位の相続人がいなかったり、相続放棄によって相続人でなくなった場合に初めて、第二順位の相続人に相続権が回ってきます。つまり、被相続人に子どもがいれば相続権は子どもに与えられ、子どもがいる限りは下位である親や兄弟姉妹に相続権は回らないということになります。
なお、被相続人の配偶者はいつでも相続人になります。いわば第零順位とでもいうべきでしょうか。
2.法定相続人と相続放棄との関連性
相続放棄をした場合、その相続人は初めから相続人でなかった(いなかった)ものとして扱われます。そして、この相続放棄によって、もし第一順位の相続人がいなくなった場合には、第二順位以降の相続人に相続権が移ることになります。
「落とし穴」というのはまさにこの点です。
実は、第三順位相続人として、被相続人の兄2名が存命であったため、第一順位相続人(子ども)が全員放棄したことにより、相続権が兄2名に移ってしまったのです。このようになってしまうと、相続財産を集中させるという目的は達成できません。
このような目的で相続放棄をする場合には、第二順位もしくは第三順位相続人の存在をきちんと確認しなければなりません。単に目の前に見えている相続人の相続放棄を実行しようとしてしまうと、思わぬ人が相続人となってしまう可能性があります。なおかつ、一度受理された相続放棄は、原則として取り消すことができませんので、取り返しがつかなくなってしまう可能性もあるのです。
3.他の手段は?
今回のような目的を達成する手段としては、「土地と建物は妻が相続する」という内容の遺産分割協議書を作成するとよいでしょう。
法定相続分というのは、相続財産を獲得する権利のいわば目安のようなものです。もちろん、自分の取り分として正当に主張できるものではありますが、実際の分け方は相続人間で自由に協議の上決めることが可能です。このような協議を遺産分割協議といいます。どの財産を対象とするかということもある程度自由に決められますので、財産の全てを対象とするも良いですし、例えば今回のケースのように土地と建物を遺産分割協議の対象としたうえで、残りの財産は法定相続分通りに分けるとしても構いません。
4.まとめ
このように、安易な相続放棄は、かえって取り返しのつかない事態を引き起こす可能性があります。遺産分割協議を行う場合に比べ、その後の名義人の変更手続きなどにおいて簡単に済むというメリットがあるのは事実ですが、大きな落とし穴があるという点にご留意ください。
不安を感じる場合には、ぜひ弁護士への相談をご検討ください。